CDP(カスタマーデータプラットフォーム)のみでMAシナリオを実現できる時代が来た? CDPの進化を解説(Vol.4)
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マーケティングの現場では、顧客一人ひとりに合わせたメッセージを最適なタイミングで届けることが求められています。その実現手段として広く使われているのが、マーケティングオートメーション(以後、MA)です。MAは顧客一人ひとりの行動や属性に応じて、最適な情報を最適なタイミングで届けるための仕組みです。企業はMAを活用することで顧客との関係性を深めながら、満足度やロイヤルティを高め、結果として売上の向上につなげることができます。
2025年4月、CDPであるTreasure Dataを提供しているTreasure Data社が「Engage Studio」というメールなどの配信実行までを担うMA機能をリリースしました。
これにより、Treasure Dataは単体で何ができるようになったのでしょうか?
本記事では、CDP×MAで実現する構成(以降、従来型と記載)と、CDP単体で完結する構成(以降、CDP完結型と記載)を比較しながら、CDPの進化やメリットを解説していきます。
Index
マーケティングオートメーション(MA)で実現できることとは?MAシナリオについて解説
「MA(マーケティングオートメーション)」とは、見込み顧客の獲得から育成、選別、購買促進、ロイヤリティ向上までを自動化・効率化するためのツールや仕組みのことです。
顧客一人ひとりの行動や属性に応じて、最適な情報を最適なタイミングで届けることで、企業は顧客の満足度やロイヤルティを高め、結果として売上の向上につなげることができます。
そして、こうした「MAツール」の効果を最大限に活かすために重要なのが「MAシナリオ」です。
「MAシナリオ」とは、顧客の属性や行動に応じて、最適なメッセージを自動で届ける一連の施策のことです。例えば、次のような施策が挙げられます。
- ECサイトで商品を閲覧したが購入しなかったユーザーに、閲覧商品に関連するクーポンをメールで送信する
- 新規会員登録後、1週間以内に購入がないユーザーに、人気商品の紹介メールを送信する
本記事では、施策自体を「MAシナリオ」、これらの施策管理・配信実行に特化した製品を「MAツール」と定義します。
ちなみに、「MAツール」の代表的なプロダクトとしては、Salesforce Marketing CloudやBrazeなどが挙げられます。
MAシナリオを実現するために必要なプラットフォームとは?
MAシナリオを実現するためには、次の5つの機能が必要です。
- データ収集:顧客の属性・行動データ、コンテンツデータなどを複数のシステムから収集
- データ統合:複数のデータソースから収集した顧客データを名寄せし、統合管理
- セグメンテーション:条件に応じて施策の対象となる顧客を抽出
- シナリオ管理:抽出された顧客に対してメッセージ配信を行うタイミングや分岐条件を設定
- 配信実行:メールやアプリプッシュ、LINEなどの各チャネルでメッセージ配信を実行
従来は、①~③をCDPが、④⑤をMAツールが担う構成が主流でした。
一方で、最近ではCDPが④⑤の機能も内包し、すべての工程をCDP単体で完結できるようになってきています。
CDPにMA機能を担わせるメリットと考慮事項
では、従来型と比較して、CDP単体でMAシナリオの実現を完結するメリットは何なのでしょうか?大きく次の4つが挙げられます。
メリット①:データ活用の柔軟性向上
CDP上には、Web行動データ、購買履歴、その他CRM情報など多様なデータが統合されています。
従来型の場合、MAシナリオの中で顧客データに応じた条件分岐やコンテンツのパーソナライズを実現するためには、CDPからMAツールへのデータを連携開発が必要でした。
例えば、「MAシナリオの中でアンケート回答によって条件分岐させたい」という要件があった時に、従来型だとCDPにアンケートデータを保持しているだけでは不十分で、MAツールに連携させておく必要があります。
一方でCDP完結型の場合は、CDP上のすべてのデータをMAシナリオで活用できる前提で、高度なパーソナライズやリアルタイム性の高い施策を検討することが可能になるのです。
メリット②:マーケティング業務効率の向上、学習コストの低減
従来型の場合、マーケターは以下のようなフローでMAシナリオの設定を行います。
- CDP(或いはBIなど)で顧客分析、MAシナリオを企画
- CDPでセグメントを作成
- MAツールでCDPから出力されたセグメントを取り込む処理を実装
- MAツールでシナリオやコンテンツを設定
- CDPツールの顧客データとMAツールの配信レポートを突き合わせて施策結果分析
このように、施策の企画・実行・分析において、複数のツールを使い分ける必要がありました。
新人のマーケターがチームに参画した際は、双方のツールの特性・操作方法を教えなければいけません。
一方でCDP完結型の場合、一連の業務を1つの画面・1つの操作体系で完結できるため、業務効率が大幅に向上します。特に、施策の修正やA/Bテストの実施など、繰り返し設定変更が求められる場面ではこの差が顕著となるでしょう。
メリット③:システム連携に伴う障害リスクの低減
CDPからMAツールへのデータ連携は、通常、APIやバッチ処理などを通じて行われます。
このようなシステム間連携を行う場合、以下例のような障害発生リスクが常に存在します。
- データ形式の不一致でエラーが発生し、配信処理が止まってしまう
- セグメントデータ連携がエラーとなり、配信対象としたい顧客が対象とできない
- 会員マスタデータ連携の遅延により、意図しない顧客に配信される
こうしたトラブルは、施策の品質低下や顧客体験の毀損に繋がるだけでなく、これらの原因特定やリカバリのための運用保守コスト増加にも直結します。
CDP単体で施策を完結できれば、システム間連携が不要になるため、こうした障害リスクを低減できます。もちろん、CDP製品内で何らかのエラーが発生する可能性も0ではないですが、一般的にシステム間連携を行うよりは、可能性が大幅に低くなります。
結果として、施策の安定性が向上し、運用保守の負担軽減が期待できます。
メリット④:ライセンスコスト管理の集約
CDPとMAツールを別々に契約する場合、それぞれにライセンス費用が発生します。さらに、データ連携開発や保守にかかる人件費も加わるため、トータルコストが高くなりがちです。
一方でCDPにMA機能が内包される場合、MA機能利用に対するオプションコストが追加で発生することが想定されるものの、MAツールのベース費用と比較するとトータルではコスト削減される可能性もあります。また、ライセンス管理がCDPに集約されるため、契約・運用管理の手間が減ることも期待できます。
ただ、この観点については、製品によってライセンス体系は様々なため、自社の各ツール利用状況を踏まえて整理が必要です。
考慮事項:MA機能の充実度
ここまではメリットを紹介してきましたが、従来型からCDP完結型に移行する場合、MA機能の充実度については注意が必要です。
MAツールは専業ツールとして長年進化してきた背景があり、シナリオ内の細やかな制御機能はCDPに内包されるMA機能よりも、まだまだ優れている場合があります。
例えば、複雑な分岐条件設定や配信タイミングの微調整など、細部にこだわった施策を実現するには、従来型が適しているケースもあります。
そのため、自社の施策要件において、このような高度な制御が必要かを見極めた上で、CDP完結型が適しているかを判断することが重要です。
ただ、仮に想定する施策要件がすべて実現できなくとも、前述の①~④のメリットは非常に価値があるため、天秤にかける価値はあるのではないでしょうか?
Treasure DataのMA機能紹介
最後に、CDPの進化をより具体的にイメージして頂きたく、CDPの代表プロダクトであるTreasure Dataの最新MA機能を紹介します。
Customer Journey Orchestration
Treasure Data社は、2022年2月に「Customer Journey Orchestration(CJO)」機能を提供開始しました。これにより、直感的なUIで、チャネル横断でのカスタマージャーニーの作成・モニタリングが可能になりました。
Engage Studio
さらに、2025年4月にはAIエージェントを搭載した次世代型MA製品「Engage Studio」がリリースされました。これにより、メールなどの各チャネルでの配信実行まで実現可能になりました。
まとめ
Treasure Dataのような進化を続けるCDP製品では、MA機能の内包によって顧客データの統合管理から施策のメッセージ配信実行までをワンプラットフォームで実現可能になってきています。このような選択肢が出てきた今、改めて自社のマーケティングシステム環境が最適な状態かを見直すタイミングが来ているのかもしれません。
電通総研では、CDP・顧客データ活用のプロフェッショナルとして「これからの顧客体験を発想して創る」ためのご支援をしております。
本記事で取り扱ったようなCDP/MA領域についても、現状業務・システムのアセスメントや、CDP完結型への移行、MAのリプレースなど、幅広くご相談頂けます。
お悩みの際は、是非、電通総研までお声がけください。
◆ お問い合わせページ:https://data-management.dentsusoken.com/treasure-data/inquiry/
*本記事は、2025年7月1日時点の情報を基に作成しています。
製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。
【筆者】
氏名:武藤 保貴(むとう やすき)
経歴:
2015年、株式会社電通総研入社後、
デジタルマーケティング領域の開発プロジェクトマネージャーとして複数の案件に参画し、
Treasure Dataをはじめとしたマーケティングプラットフォーム開発、コンサルティングに従事。