AI Readyなマーケティング基盤に必要な7つのコト(Vol.008)

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企業におけるAI活用は日常的に語られるようになり、様々なシーンで「AI Ready」というキーワードを耳にすることもあるかと思います。

マーケティングにおけるAI Readyな状態とは、AIが顧客データの意味を捉え、分析し、アクションできる状態と考えられます。
そこで本ブログでは、AI Readyなマーケティング基盤に求められる要件を解説します。

生成AI時代のマーケティングプロセスとは

生成AIの登場により、企業のあらゆる業務の在り方が変化しており、マーケティングも例外ではありません。一般的なマーケティングプロセスに対して、一般的なマーケティングプロセスに対して、以下のようなユースケースが見られます。

マーケティングプロセス AIユースケース

プランニング

・世の中のトレンドと自社データを照合した顧客分析

・AIペルソナを用いたインタビュー

・キャンペーン効果シミュレーション

クリエイティブ制作

・SNS・広告投稿コンテンツの自動生成

・顧客データに基づくメールコンテンツの自動生成

・ブランドガイドラインの適応度チェック

データ活用施策

・自然言語でのキャンペーン実装

・顧客属性・行動に基づくレコメンデーション生成

・カスタマーサービスエージェント

効果検証・改善

・自然言語でのキャンペーン効果分析

・異常検知(炎上リスク、過剰な費用投下)

生成AI時代のマーケティングに必要な3レイヤー

生成AIを活用したマーケティングユースケースをPoCで終わらせないためには、企業全体の取り組みとして、①戦略、②組織・人財、③テクノロジーの3レイヤーで課題検討が必要です。

レイヤー 検討課題例

①   戦略

・事業価値創出・業務変革におけるAI活用ビジョン

・ユースケース優先度、ロードマップ

・AIガバナンスマネジメント

②   組織・人財

・AI推進・ガバナンス体制(CoE

・AI活用人財育成、リスキリング

・AI活用文化の醸成

③   テクノロジー

・AI基盤(LLMエージェント、LLMOpsなど)

・データ基盤(DWHCDPiPaaSなど)

・コミュニケーション基盤(CDPMAなど)

本ブログでは特に③テクノロジーに焦点を当てて解説していきます。
③に記載した3要素の役割は、それぞれ以下の通りです。

  1. AI基盤:データの意味を捉えて、分析し、施策を提案する役割
  2. データ基盤:AIが扱いやすい形でデータを管理する役割
  3. コミュニケーション基盤:カスタマージャーニー・コンテンツを管理し、施策実行する役割

関係性を概念図にすると、下図のように整理できます。

AIユースケースを実現するためには、AI基盤を単に導入・チューニングするだけでは十分ではありません。
併せて、従来より企業が構築に取り組んできたデータ基盤 / コミュニケーション基盤についても、あらゆる顧客体験におけるAI活用を見据えた継続的な見直しが必要です。

では、「データ基盤」と「コミュニケーション基盤」は、今から何を対応すればAI Readyな状態と言えるのでしょうか?
詳細は後続の章で解説していきますが、以降はデータ基盤とコミュニケーション基盤を総称して「マーケティング基盤」と呼ぶこととします。

AI Readyなマーケティング基盤に必要な7つのコト

本章では、AI Readyなマーケティング基盤を考えるうえで欠かせない7つの観点をご紹介します。

  1. 取り扱うデータの種類
  2. 明確なデータの意味付け
  3. データの偏り検知
  4. データのリアルタイム性
  5. 顧客データモデルの理解
  6. 施策の実行とフィードバック
  7. ガバナンス

各観点でご紹介する「マーケティング基盤で必要な対応」については、まずキーワードを認識することが大切です。そのため、本記事はキーワードをなるべく網羅的に紹介します。

1. 取り扱うデータの種類

生成AI時代の変化

これまでは購買履歴や会員属性などの「構造データ(Excelの表で表現できるような情報)」が中心でした。しかし現在はレビュー文章やチャット履歴、SNS投稿画像など「非構造データ」も含めて、顧客の興味や感情を推定し、広告やコンテンツに活かすことが求められています。

マーケティング基盤で必要な対応

文章や画像などの「非構造データ」も保存・分析できる仕組みが必要です。

  • 非構造データを格納できるデータレイクの導入
  • 構造化・非構造データを統合的に分析可能なデータレイクハウスの導入
  • 非構造なテキストや画像を数値化して似ているものを探しやすくするベクトルDBの導入

2. 明確なデータの意味付け

生成AI時代の変化

これまでの分析では、人が「“date”の項目は購買日付を意味する」と文脈から判断して取り扱っていました。
ただ、実際のビジネス現場では、dateと言っても注文日、発送日など様々な日付を意味する可能性があります。AIにはそのデータの意味や出所を明確に認識させる必要があります。

マーケティング基盤で必要な対応

AIがデータの意味を正しく理解するための仕組みが必要です。

  • メタデータ(データを説明するデータ)管理による意味・出所のタグ付けとその自動化
  • データの在りかを検索しやすくするデータカタログの整備
  • データリネージ(データの流れ)を可視化する仕組み

3. データの偏り検知

生成AI時代の変化

例えば地域ごとのキャンペーン設計のための分析に利用するデータが都市部に偏っていると、分析結果にバイアスが含まれ、判断を誤る可能性があります。観点2と同様に、これまでは人がデータの分布を意識して、アクションを検討していました。しかし、AIにも自律的なアクションを求める場合、バイアスを検知してAIが認識できる仕組みが求められます。

マーケティング基盤で必要な対応

AIがバイアスを認識するための仕組みが必要です。

  • データ分布の自動分析と偏り検知を行うデータ品質管理機能の導入

4. データのリアルタイム性

生成AI時代の変化

例えばAIが特定の顧客に優待価格を提案する場合、最新の価格情報を認識していなければ、「セール開始後に優待価格の方が高くなる」といった矛盾が発生するおそれがあります。このように、シーンによってはリアルタイム性の重要度が増しています。

マーケティング基盤で必要な対応

すべてのデータをリアルタイムに収集する必要はありませんが、必要に応じて以下のような対応検討が必要です。

  • データ基盤に対して、リアルタイムにデータ収集できるストリーミング処理基盤の導入

基幹システムの情報をリアルタイム参照できるAPIの開発(レガシーモダナイゼーション)

5. 顧客データモデルの理解

生成AI時代の変化

データに基づくマーケティングを行う上では、以下のような顧客データモデルを定義しておく必要があります。一般的には、統合顧客プロファイル、などの名称で呼ばれることもあります。

観点1~4は、1つ1つのデータ(図中の丸)をAIが正しく理解できるように整備した一方で、観点5はデータの関係性(図中の線)を定義し、AIに認識させることを意図しています。これはマーケティング特有かつ根幹となる部分です。

マーケティング基盤で必要な対応

AIが顧客データモデルを正しく理解するための仕組みが必要です。

  • CDPを活用した統合顧客プロファイルの構築
  • AIが統合顧客プロファイルの定義情報を参照するためのCDPAPI/MCPサーバー

6. 施策の実行とフィードバック

生成AI時代の変化

昨今のAIへの期待は、分析だけにとどまらず、マーケティング施策の提案から、コミュニケーション基盤でのセグメント、ジャーニー、コンテンツのひな形設定をすることまで期待されています。

マーケティング基盤で必要な対応

AIが過去の施策情報を総合的に分析し、施策設定までを自律的に行う仕組みが必要です。

  • コミュニケーション基盤からデータ基盤への施策結果(構造データ)のフィードバック
  • AIが過去の施策分析を行う際に、設定されたカスタマージャーニーやコンテンツ情報(非構造データ)を参照するCDPAPI/MCPサーバー
  • AIが自律的にセグメント、ジャーニー、コンテンツなどの施策を設定するためのCDP/MAAPI/MCPサーバー

7. ガバナンス

生成AI時代の変化

AIも1人の業務運用者とみなし、個人情報保護法などの法規制および社内のデータアクセス権限ルールを遵守させる必要があります。

マーケティング基盤で必要な対応

AIが社内ルールを認識して分析、アクション出来るようにする仕組みが必要です。

  • 同意管理ツール(CMPの導入と、同意情報に基づく利用可能データの制御
  • 参照可能なデータや操作などの権限を定義したポリシーをAIに適用する機能

まとめ

本記事では、生成AI時代のマーケティング基盤に求められる要件について解説しました。
必ずしも本記事で説明した7つの要件をすべて満たす必要はなく、必要なものから段階的に導入していくのが良いでしょう。

電通総研では、CDP・顧客データ活用のプロフェッショナルとして「これからの顧客体験を発想して創る」ためのご支援をしております。
本記事で取り扱ったようなAI活用を見据えたマーケティング基盤の整備についても、現状業務・システムのアセスメントから構築支援まで、幅広くご相談頂けます。
お悩みの際は、是非、電通総研までお声がけください。

また、製品・サービスに関する詳しいお問い合わせは、電通総研のWebサイトからお問い合わせください。

◆ お問い合わせページ:https://data-management.dentsusoken.com/treasure-data/inquiry/

*本記事は、2025101日時点の情報を基に作成しています。

【筆者】
氏名:武藤 保貴(むとう やすき)
経歴:
2015年、株式会社電通総研入社後、
デジタルマーケティング領域の開発プロジェクトマネージャーとして複数の案件に参画し、
Treasure Dataをはじめとしたマーケティングプラットフォーム開発、コンサルティングに従事。

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